事件番号:JP2015-0006 裁 定 申立人: (名称)エルマイラ・ペット・プロダクツ・リミテッド (住所)カナダ国、オンタリオ州 N3B 2Z5、エルマイラ、マーティンズ・レ ーン35 代理人 弁護士 伊 藤 亮 介 弁護士 廣 中 健 弁護士 髙 梨 義 幸 登録者: (名称)有限会社ニュートラムジャパン (住所)大阪府泉大津市旭町22-45 テクスピア大阪 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメ イン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛 争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された 証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「NUTRAMJAPAN.CO.JP」の登録を取消せ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「NUTRAMJAPAN.CO.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、登録者によって登録され使用されている本件紛争にかかるドメイン名 「NUTRAMJAPAN.CO.JP」(以下「本件ドメイン名」という)は、申立人が所有する「NUTRAM」 の英文字からなる後記各登録商標と混同を惹き起こすほど類似していること、登録者 は本件ドメイン名に関する権利または正当な利益のいずれも有していないこと、およ び本件ドメイン名が不正な目的で使用されていることを主張している。 かかる理由により、申立人は、ドメイン名登録の取消しを請求している。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原 則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審 問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、な らびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し ている。 「(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表 示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること」 以下、上記指図に従い、申立人が上記(1)ないし(3)の事項を証明しているか否か を判断する。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示 と同一又は混同を引き起こすほど類似していること (a)申立人の商標 申立人は、我が国において次の登録商標を所有している。 (ア)商標登録第5075657号(甲3の1、3の2) 商標の構成:ブロックレターの英文字「NUTRAM」を横書きしてなる商標 指定商品:第31類「犬猫用ペットフード」 (以下「本件商標1」という。) (イ)商標登録第5736544号(甲4の1、4の2) 商標の構成:ロゴ化した英文字「nutram」を横書きしてなる商標 指定商品:第31類「犬猫用ペットフード、その他のペットフード」 (以下「本件商標2」という。) (ウ)その他の商標 上記に加え、申立人は、いずれも「NUTRAM」のロゴ化した英文字を大きく 表示し、他の文字と組み合わせた構成の商標を、いずれも「第31類 犬猫 用ペットフード、その他のペットフード」を指定商品とする商標登録第 5736542号(甲5の1及び2)、商標登録第5736543号(甲6の1及び2)、商 標登録第5736545号(甲7の1及び2))を所有している。 (b)申立人の本件商標に対する正当な利益 申立人は、本件商標1および2、更には上記その他の商標を我が国において登 録しており、また、かかる本件各商標を付した犬猫用ペットフードをカナダその 他日本を含む多数の国で販売してきたことが認められ(甲9ないし11の各1お よび2)、また、申立人はNUTRAMの名称を付した事業部を有してNUTRAM商品の販 売を行っていると認められる(http://www.nutram.co./community参照)。したが って、申立人は本件商標について正当な利益を有するものと認められる。 (c)本件ドメイン名と本件商標1および2との混同を惹起するほどの類似性 本件ドメイン名「NUTRAMJAPAN.CO.JP」のトップレベル・ドメインの「JP 」は 日本国を示す国名コードであり、セカンドレベル・ドメインの「CO.」は組織の属 性を示すコードであり、出所を識別する機能を有しない。したがって、本件商標 と比較する場合は、第3レベルのドメイン名NUTRAMJAPANが本件ドメイン名にお ける要部ないし比較対象であると認められる。その場合、NUTRAMJAPAN.の後半の 「JAPAN」の文字は当然ながら日本国を意味する国名ないし地名であるとともに、 多くの外国製品扱う外国企業の我が国における支社ないし子会社に本国の企業名 ないしブランド名に地域名である「JAPAN」の文字を付して使用される場合が極め て多いことが周知の事実である点は、証拠を挙げるまでもなく、認定することが できる。 してみると、「NUTRAM」の部分のみが、本件ドメイン名における自他識別力を有 する部分であり、その部分において本件商標1および2の「NUTRAM」とほとんど 同一と言え、本件ドメイン名は本件商標1および2と混同を惹起するほどに類似 していると認められる。 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと 申立人が提出した甲8、甲9ないし11の各1および2によれば、登録者はかっ て申立人の製造販売にかかる犬猫用ペットフードを申立人から輸入して我が国にお いて販売していたものであるが、2013年11月ごろまでには20万米ドルを超 える輸入代金の支払いを遅滞し、同月ごろ申立人から書面(甲8)をもって取引の終 了と販売の停止を含む要請がなされたが、登録者はこれに回答していないと認めら れ、少なくとも、この時点をもって、登録者は申立人のNUTRAMを付した商品 の販売をする権限を失ったと認められる。また、登録者が、申立人のNUTRAM 商品以外の商品の販売等を行ってきた事実は認められない。 よって、登録者は、現在本件ドメイン名の登録を維持し使用する正当な権限を有 しないと認められる。 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること 前項に述べたとおり、登録者は、2003年11月頃以降、申立人のNUTRA Mを付した商品の販売をする権限を失ったものであるが、登録者はその後も現在に 至るまで、本件ドメイン名によるウェブサイト(http://www.nutramjapan.co.jp)を 維持し、同ウェブサイトには「カナダnutram社製犬・猫用プレミアムペットフード の正規輸入代理店です」ですと記載している。また、nutramjapanのキーワードで検 索したgoogleの検索結果には、第1番目に登録者の記事が掲載され(甲12)、そ の要約項目(いわゆるスミペット)には、上記ウェブサイトからの「ニュートラムジ ャパンは、カナダnutram社製犬・猫用プレミアムペットフードの正規輸入代理店で す」との引用がなされている。 登録者が、上記の記載をしたウェブサイトを引続き維持することによる本件ドメ イン名の使用は、登録者が商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトに申立人 との取引提携関係があるような誤認混同を生ぜしめるものであり、インターネット ユーザーに当該ウェブサイトに誘引するために、本件ドメイン名を使用するもので あり、JPドメイン名紛争処理方針の第4条b.(ⅳ)に該当する。 (4)登録者の本件ドメイン名に関連する権利または正当な利益に関連する特別な事 情の不存在 登録者は答弁書を提出せず、本件ドメイン名に関する登録者の正当な利益につい て、なんらの主張もしておらず、また、証拠も提出していない。 しかるところ、本手続きにおいて提出されているすべての証拠に鑑みても、JP ドメイン名紛争処理方針の第4条c.項に定めるような、登録者の本件ドメイン名 に関係する権利あるいは正当な利益を認めるに足る事情は認定できず、前記(3)(a) 項に述べた認定を覆すに足りない。 例えば、(ⅰ)登録者は、2003年11月頃、申立人から登録者の社名の変更、 Nutram Japanおよびそのバリエーションを登録者の名称ないし商標等として使用 することの中止を求める通知を受け(甲8)、その後も2005年5月1日付け書簡 (甲1)、同年5月12日付け書簡(甲9の1,2)、同年6月16日付け書簡(甲 10の1,2)、同年7月2日付け書簡(甲11の1,2)により、本件ドメイン名 の取消および使用の中止を求める通知を受けているが、登録者はこれに回答した事 実は認められず、その間、上記のウェブサイトを維持し、本件ドメイン名の使用を 継続している。 また、(ⅱ)本件ドメイン名の内識別力を有する「nutram」の名称は、登録者自身 が申立人のnutram事業部門の製造販売にかかる製品の商標として使用しており、登 録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されたとは認められない。 更に、(ⅲ)登録者は本件ドメイン名を犬猫用ペットフードの販売の目的で使用し ており、「非商業的目的」に使用しているのではなく、また、前述のとおり公正に使 用しているとは認められないこと等から、登録者の権利又は正当な利益を認めるこ とはできない。なお、登録者が2010年頃から有限会社ニュートラムジャパンの 商号で営業を行っていた事実(甲13の1)は、上記認定を覆すに足りない。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「NUTRAMJAPAN.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ド メイン名について権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の 目的で登録され且つ使用されているものと裁定する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「NUTRAMJAPAN.CO.JP」の登録を取消す べきものとし、主文のとおり裁定する。 2015年12月7日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル パネリスト 熊 倉 禎 男 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2015年9月18日(電子メール)及び9月18日(郵送) (2)手数料受領日 2015年9月18日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2015年9月25日 JPRSへ照会 2015年9月25日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、 JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住 所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2015 年9月28日に、申立書への全ての代理人の押印、英文の委任状及び法人 証明書の和訳の追完が必要と判断してその旨を申立人に通知し、同年9月 30日に受領した。センターは、同年10月1日に、申立書が処理方針と 規則に照らし申立書が適合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2015年10月5日(電子メール及 び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2015年11月4日 (6)手続開始日 2015年10月5日 センターは、2015年10月5日に申立人及び登録者には電子メール 及び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (但し、登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送さ れた。) (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2015 年11月5日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提 出通知書を、申立人及び登録者に送付した(電子メール及び郵送)。 (但し、登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送さ れた。) (8)パネリストの選任 2015年11月10日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2015年12月3日 パネリスト:熊倉禎男 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2015年11月10日 JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール) 申立人及び登録者へ通知(電子メール及び郵送) (但し、登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」とし て返送された。) 裁定予定日:2015年12月1日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2015年11月10日(電子メール及び郵送) (11) 陳述・書類の追加 2015年11月26日、パネリストは、手続規則12条の規定により、 申立人に対し、陳述及び書類の追加を求め、2015年11月30日(電 子メール)及び同年12月2日(郵送)、申立人から追加書類を受領した。 (12) 裁定期限の延長 2015年11月27日、パネリストは、手続規則10条(c)但し書き の規定により本件裁定期限を同年12月7日まで延長する旨を、申立人(電 子メール及び郵送)、登録者(電子メール及び郵送)、JPNIC及びJPRS(電 子メール)に通知した。 但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返 送された。 (13)パネルによる審理・裁定 2015年12月7日 審理終了、裁定。